河村 正雄
社会保険労務士法人ELMソリューションズ
代表社員・特定社会保険労務士
2024年10月から社会保険の適用拡大が実施されます。今回はその内容について実務的なポイントをご紹介します。
1 適用範囲の拡大
従業員数が51~100人の企業等で働くパート・アルバイトの方が、2024年10月から新たに社会保険の適用対象となります。
※ここで言う従業員数とは、厚生年金保険の被保険者数を指します。
今回の改正では、短時間労働者(週20時間以上30時間未満の労働者)や、特定の条件を満たすアルバイトやパートタイマーも社会保険の適用対象に含まれるようになります。これにより、労働者の雇用形態にかかわらず、広く社会保険に加入させる必要があります。対象者を正確に把握し、適切に手続きを行うことが求められます。
上述の特定の条件とは次の通りです。
また従業員のカウント方法は次の通りです。
2 企業の負担増
適用範囲の拡大に伴い、企業が負担する社会保険料が増加する可能性があります。特に多くの非正規労働者を雇用している企業では、負担増が顕著になることが予想されます。これに対しては、事前にコスト分析を行い、予算の再配分や労働条件の見直しなどの対策を検討する必要があります。
対象となる従業員が、仮に全員社会保険へ加入した場合のシミュレーションをしてみることにより、コストを事前に把握することが可能です。
厚労省の社会保険適用拡大特設サイトに「社会保険料かんたんシミュレーター」が用意されていますので活用してみましょう。
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/
3 労使間のコミュニケーション
社会保険の適用拡大は従業員の手取り賃金にも影響を与えるため、労使間のコミュニケーションが重要です。従業員に対しては、社会保険への加入で得られるメリットや将来的な保障についても丁寧に説明し、理解を深めてもらうことが大切です。なお、選択的適用拡大という制度により、労使が合意すれば施行期日より前に企業単位でパート、アルバイトの方を社会保険に加入させることも可能です。
従業員への説明用にパンフレットが用意されていますので活用してみましょう。
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/koujirei/pdf/guidebook_merit.pdf
4 システムと業務フローの見直し
適用拡大に伴い、人事労務システムや業務フローの変更が必要になる場合があります。入社手続きの際、これまで不要であった社会保険の手続きが発生しますし、給与計算システムにおいても、社会保険料の等級設定などに注意が必要です。また、現状の計算ソフト等が新たな要件に対応しているかを確認し、不備があればアップデートや修正を行う必要があります。
5 雇用契約の見直し
適用拡大により、新たに社会保険に加入することになった従業員との間で、雇用契約の見直しが必要になる場合があります。たとえば、社会保険料の負担や労働時間に関する規定などについて契約内容を適正化することが重要です。また、場合によっては就業規則の変更が必要になることも考えられますのでチェックしておきましょう。
◎執筆者紹介
河村 正雄
社会保険労務士法人ELM(エルム)ソリューションズ 代表社員
特定社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、医療労務コンサルタント、職務評価コンサルタント、相談のプロ
https://www.sharoshi-tokyo.com/index.html
東京都杉並区生まれ、成蹊大学法学部卒業
企業の人事・総務部門を経験した後、1994年東京で社会保険労務士事務所を開業。小売業、医療機関、警備業、教育機関等の労務管理、労務トラブルの解決、採用支援、定着支援等を得意とする一方、キャリアコンサルタントとして企業におけるキャリアカウンセリング、キャリアパス設計のためのコンサルティング実績も多数。また、分かりやすく楽しいセミナーをモットーに各種基調講演や行政機関、商工団体でのセミナーを多数経験。