経理業務を担当しているお客様へのお役立ちコラム|第1回 インボイス元年 ~現場はどうだったのか?

2024/05/09コラム

松本 直樹

松本直樹税理士事務所 税理士

はじめに

昨年10月1日から、インボイス制度の運用がスタートして、今年3月には個人事業者が「初の」インボイス発行事業者としての消費税申告も行った。運用スタート前後は、「インボイス書式はこれでよいか?」との質問・相談が非常に多かったが、このところは落ち着きを見せているものの、事務負担増や税負担増と今後への不安をよく聞く。本稿では、インボイス制度運用スタートから最近にかけて、筆者がインボイス制度について感じたことを述べてみたい。

ウチはインボイスじゃないので消費税分値引きします!

筆者の事務所のクライアントは、小規模企業が主なので、受取インボイスの不備チェックよりも、免税事業者に対する外注費対応指導に注力した。つまり、外注者に対してインボイス発行事業者になるのかどうか、ならないなら消費税額がどうなるかの試算を、事前に念入りに行った。すると、クライアントを通じて「ウチはインボイスじゃないので消費税分値引きします!」と言ってきた事例が2件あった。問い合わせしたクライアントは、もちろん高圧的に問い合わせたつもりはないのに・・・、と驚いたとのこと。制度スタート前後は、免税事業者にとってかなりのプレッシャーだったようだ。

インボイス対応についての国税当局の姿勢を理解する

インボイス制度対応については、現時点では消費税負担増よりも、事務負担増の方が現場の声として多く聞かれるようだ。制度スタート当初は受取インボイスの20%が記載不備で、経理現場が再発行依頼等で疲弊しているなどの報道もあった。その一方で、国税庁長官によるインタビュー記事で「記載不備をあげつらうような調査はしない。記載漏れがあっても別途確認できれば指摘しない」と発言している。加えて、少額特例や2割特例など、相次いで税負担を押さえる措置も次々と出された。つまり、国税当局はインボイス制度導入による消費税収アップが究極の目的であり、事務負担増による事業者の不満は望んでいないはずだ。

インボイスに係る立場の違いを理解する

上記のように、免税事業者はなぜ値引きしたのか、国税庁長官はなぜ「記載不備は問わない」と発言したのか、など、インボイス制度は、立場の違いを理解しないと、お互いにギャップが発生しやすい制度だ。

この機会にインボイスをめぐる立場をまとめてみた。消費税申告方法で分類すると、事業者は3通り(原則課税事業者、簡易課税事業者、免税事業者)。この3通りの立場で、それぞれインボイスの出し手(発行側)と受け手(受領側)に分かれる。免税事業者は出し手の時は、インボイスでなく、単に請求書か領収書になる。この6種類の立場のうち、事務負担増に悩んでいるのは、原則課税事業者の受け手のみ。つまり膨大な請求書や経費領収書が仕入税額控除可能なインボイスに該当するのか、のチェック作業が大変なわけだ。筆者は個人的には、少なくとも国税局所轄法人でなければ、多少チェックレベルをゆるめてもよいのかなと考えている。税務署調査官も、記載不備による仕入税額控除否認指摘はやりたくないはずだし、そもそも当面は網羅的なインボイスチェックをしないと考えている。これについては、最近の法人調査現場でも調査官に直接聞いたら予想通りの返答だった。

この先のブラックデーを意識しておきたい

事務負担はともかくとして、2割特例や経過措置などにより、消費税そのものの負担増は懸念したほどではないとして、とりあえずは制度定着の方向だ。しかし、この先確実に負担は増えることを強く認識しておくべきだ。具体的には、免税事業者からの課税仕入れが8割から5割になるのは2026年10月1日以降、5割から「なし」になるのは2029年10月1日以降で、たとえばITフリーランスに多くの外注費を計上している事業者は、相当の消費税額負担増になる。逆に、2割特例も2026年10月1日以降はなくなるため、インボイス登録した本来免税事業者だった事業者の消費税負担も急激に増加する。

結論として、インボイス制度については、柔軟な運用で事務負担増を軽減しつつ、2026年10月1日に向けての準備が重要と筆者は考える。


松本 直樹

松本直樹税理士事務所 税理士
https://naozei.jp/

石川県金沢市生まれ
金沢大学法文学部経済学科卒業
卒業後、証券会社で債券トレーダー、デリバティブ業務に従事
証券会社を退職後、税理士事務所勤務
1997年 税理士試験合格
1999年 松本直樹税理士事務所として独立開業
2006年 株式会社ケーエムエスを設立
2014年 総合コンサルチーム「みんなで顧問」結成
2016年 合同会社「みんなで顧問」設立
2023年 マンガ本「みんなの相続」出版
2024年 マンガ本「みんなの相続パート2」制作中

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